2014年9月9日火曜日

国際通貨体制と円

最後に、それ自体ヒエラルキー的な多国籍企業は、権威主義的、中央集権的体制と結んで、汚職腐敗を生む可能性があるし、また大規模生産を特徴とするため文化の一元化をすすめて、地方固有の文化を破壊しやすい。多国籍企業と国民経済のあいだには以上のような矛盾点があるが、企業の多国籍化か世界経済の相互依存化の有力な歯車の一つであるかぎり、多国籍化の趨勢は今後とも長期にわたってすすむだろう。したがって、多国籍化の進展とともに、国連など国際機関の場や国レベルでの多国籍企業を規制する綱領制定、NIEOが指向しているような企業子会社の現地化や合弁事業への理解、そして企業利益と地域社会の利益の調和など、いろいろな努力が多面的にくりひろげられていかなければならない。

多国籍企業の行動規準(code of conduct)多国籍企業の遵守すべき投資憲章や行動規準については、業界団体、労働組合の提言や米議会での贈賄禁止法など、さまざまの試みが行なわれている。国際機関では、OECDが一九七六年に、多国籍企業と国家政策や投資奨励政策・国有化政策等についてガイドラインを発表している。八六年に、国連の多国籍企業委員会で、国連多国籍企業行動規準合案がっくられた。この行動規準案は、国家圭権、人権・基本的自由、社会的・文化的価値、汚職腐敗の防止などを前文にうたい、経済的・金融的・社会的な面に関しては、意思決定権の分散、国際収支への配慮、振替価格や脱税の防止、制限的商慣行の禁止、技術移転の促進、消費者保護、環境保護を、また情報面では情報公開、国家との関係では地元企業と同列の公正な取扱いや不当な国有化を避けるための保障、これらの実行のための国際協力、国連多国籍企業委員会による規準実行のモニタリング(監視)などを定めている。

国際通貨体制とは、国と国とのあいだの貿易や資金移動の促進、国際収支の調整、金融市場の円滑な機能などのために国際的に合意された通貨取決め、協定やこれらに基づく機関の総体を指している。近代の世界経済において、国際通貨はつねに世界市場で優越する経済力をもった国の通貨を基軸として決められてきた。一九世紀から第一次大戦時まで安定的に続いた国際金本位制は同時に、イギリスのポンドが基軸通貨となる時代でもあった。イギリスは当時「世界の工場」として、世界の多角的貿易経済の中心であった。他の諸国はそれゆえ、イギリスとの貿易をまかなうためにポンドをため、これをロンドン金融市場に預金した。

そしてイギリスは自国のポンドをつかって、海外投資を行ない、帝国主義の黄金時代を出現させた。だが、二〇世紀に入って、アメリカやフランスの経済力がイギリスを上回り、イギリスの金保有比率が低下して、ポンドの価値も不安定化することになった。また、世界的な金生産の減少のため、増大する世界貿易の決済がまかないにくくなったこともあって、第一次大戦時に金・ポンド本位制は停止しか。その後、金本位制復帰へのいろいろな試みがなされたが、結局歴史の時計の針を後に戻すことはできず、大恐慌時に主要国は経済ブロック形成に移行し、ドル、ポンド、金ブロック(フランスなどヨーロッパ六国)の基軸通貨圏が形成された。

日本はやや遅れて、朝鮮・台湾の植民地と中国東北部(「満州」)、および日中戦争での占領地を中心に円ブロックの形成を試みる。第二次大戦後は、アメリカの経済力を背景として、ブレトンウッズで合意された金・ドル本位制が国際通貨体制を形づくったことはすでにみた。この通貨体制は、経済ブロック分立、世界貿易縮小の苦い経験から、貿易制限をのぞき、通貨の交換性を促進し、自由貿易・自由資本移動をすすめるために、IMFと世界銀行グループを創出したのである。ここで、戦前の通貨ブロックの経験をふまえ、ある国の通貨がある一つの経済圏において基軸通貨化する条件を整理しておこう。