2012年5月17日木曜日

ゴルフ会員権相場が示す時代の変遷

東京都心から自動車で約1時間の好立地、しかもゴルフ場設計の鬼才、ピート・ダイ設計の名コースが231万円。オリックス・ゴルフ・マネジメント(東京・港)が2007年11月に会員権を募集した「きみさらずゴルフリンクス(GL)」の価格設定は、業界に衝撃を与えた。

競技志向の名コースにもかかわらず値ごろ感のある価格は、ゴルファーの人気を集めた。昨年実施した350人分の初回募集は、2カ月という短期間で終了。キャンセル待ちも発生している。

ゴルフ会員権相場は、バブル期に投機の対象となり高騰した。関東ゴルフ会員権取引業協同組合のまとめでは、関東の主要150コースの平均で、1989年のピーク時には4100万円を超えた。ところが、バブル崩壊とともに値崩れし、2002年には270万円程度と15分の1まで下がった。

会員権相場暴落の一因となったのが当時、多くのゴルフ場が採っていた預託金制度。入会時に支払った金額の一定割合を入会から10―15年程度たって退会する場合には返還するという契約だった。しかし、多くのゴルフ場経営会社は、預託金をゴルフ場開発の再投資に振り向けた。バブル崩壊で、高額で会員募集したゴルフ場では預託金を返還できない例が相次ぎ、多くのゴルフ場で破綻につながった。

実は、きみさらずGLは、預託金なし入会金のみでの募集だった。破綻したゴルフ場を買収してきみさらずGLの運営会社となったオリックス・ゴルフ・マネジメントの枩埜(まつの)義敬社長は「預託金は諸悪の根源。買収前の旧会員がいない場合の新規募集は、預託金なしが望ましい」と語る。

関東主要150コースの平均価格は現在、400万円台前半まで回復している。全国ゴルフ場の年間入場者数は2000年以降、9000万人程度で推移している。バブル崩壊で法人需要が減少したため、ピーク時の92年に比べると10%以上減った。ただ、女子プロやジュニアの人気選手の出現で女性や家族層、高齢者へと「ゴルフ人口のすそ野は広がっている」(枩埜社長)という。

一時は投機の対象だった会員権だが、最近は、ゴルフをスポーツとして楽しむために購入する個人が相場を下支えしている。

ゴルフ場の破綻も減っている。帝国データバンクによると、07年ゴルフ場経営業者の破綻は49件で前年より5件少ない。負債総額は6889億円で、前年より8.4%増えたものの、ピーク時だった02年の2兆1897億円に比べると7割も減った。

破綻ゴルフ場がもたらした巨額の負債は、金融機関の破綻にもつながった。公的資金の注入を受けたある大手銀行の元頭取は「銀行のバランスシートは、世の中の欲望の裏返し」と語る。かつて、人々の欲望を引き付けたゴルフ場。個人に巨額な損失をもたらしたうえ、銀行への国税投入も招いた。高い授業料を払った後、ようやく、マネーの世界からスポーツの世界へと戻ってきたようだ。

2012年5月9日水曜日

菜種かす荷余りで食用油メーカーが苦境

食用油メーカーが菜種油を搾りにくい状況に陥っている。搾油と同時に出てくる菜種かすの荷動きが高値を背景に低迷し、搾油工場に菜種かすがあふれているためだ。食用油各社は菜種かすを値下げして在庫一掃を図っている。

「菜種かすが工場にあふれかえっている」。食用油メーカーの役員は困惑した表情で話す。同社の工場の倉庫は菜種かすで満杯。あふれた菜種かすは外部の倉庫に預けているという。

菜種かすは油分を除いてあるので長期間保存しても品質劣化の心配はないというが、外部の倉庫を借りれば費用が発生する。収益確保のためにもできれば早く在庫一掃したいのが食用油メーカーの本音だ。

菜種かすは配合飼料や肥料になる。肥料向け需要が高値で落ち込んだことが荷動き低迷の主因。菜種かすは原料の菜種価格の高騰を背景に値上がりを続け、ここ1年半で7割上昇、東京市場では1キロ42円を付けた。果樹農家は価格高騰を嫌って、果樹に与える菜種かすを減らしたり、割安な化成肥料にシフトしたりしている。

3月からは食用油メーカーは需要を喚起するため価格を引き下げて販売している。足元の市中価格は1キロ38円とピークの3月と比べて4円(9.5%)下がった。値下げで農家の買い付け意欲は少し上向いたものの、在庫を一掃するまでには至らない。

食用油メーカーのなかには、菜種油の生産を抑制し、同じ主力食用油の大豆油に生産の力点を移している。「大豆油が健康増進につながるというイメージを強調していく」(食用油メーカー)という。食用油は一般に菜種油と大豆油を混ぜて使うが、大豆油の分量を増やす食用油メーカーも出ている。

とはいえ、商品の品ぞろえを維持するには菜種の生産は不可欠で、菜種油を生産すれば菜種かすは発生する。在庫一掃の願いは遠のく。ある食用油メーカーの役員は「さらに菜種かすを値下げするしか解決策はない」と話す。菜種かすの価格基調は一段と弱まりそうだ。

液晶テレビ市場の成長、踊り場到来の兆し

近年急速に普及が拡大してきた液晶テレビ。10年ぐらい前まではブラウン管テレビが当たり前だったのが、いまでは「おまえの時代は終わった」とばかりに薄型大画面の液晶テレビは家電量販店の目玉商品となっている。技術革新による製品の進化が消費を喚起するといった戦後の日本経済の成長パターンを踏襲し、薄型テレビは期待の成長商品と見込まれている。だが、基幹部品である液晶パネルの市場をみると、早くも踊り場にさしかかってきた兆候が現れている。

売れ筋サイズとなっている32型のテレビ用液晶パネルの大口取引価格は昨年4月以降、年末までに9%上昇し、過去初めて値上がりに転じた。通常、デジタル家電製品に使うハイテク電子部品の多くは市場投入の直後が最も高く、絶え間ない技術革新による陳腐化や生産効率改善によって値下がりしていくのが一般的。昨年の液晶パネルの価格上昇は値ごろ感が出てきた薄型テレビへの消費が急激に盛り上がったため、パネルメーカー各社の生産能力拡大が追いつかずに需給が逼迫(ひっぱく)したことが背景となった。

その結果、パネル各社は価格上昇で収益が拡大する一方、需要家のテレビメーカーからの供給拡大への要請の強まりもあって、設備投資拡大が喫緊の課題となった。シャープを始め、韓国サムスン電子、台湾の友達光電など日韓台の主要パネルメーカーが来年、再来年にかけて設備の新増設が相次ぐ。

一方、需要のほうは、ヤマ場となる北京五輪が終わった後、来年にかけて世界的な景気悪化懸念も背景に鈍化を予測する見方が増えている。米調査会社のディスプレイサーチによると、世界の液晶テレビ需要は07年に7933万台と前年比73%増えたが、08年は32%増、09年以降は10%台に成長率は鈍化。このうち、日本市場をみると、07年は772万台と35%増加したが、08年以降は10%以下の低成長となり、デジタル放送への完全移行後の2012年には減少に転じると予測している。

テレビメーカー各社の新製品戦略をみても「消費喚起につながる機能面での決め手がなくなってきた」(調査会社BCN=東京・文京)との指摘が出てきた。例えば、サイズでは32型前後に売れ筋サイズが落ち着いてしまい、50型、60型などの高価格帯製品は富裕層向けなど限定的需要にとどまり、大型化による消費喚起は見込めなくなった。高画質のハイビジョン対応やリモコンの操作性を向上させるリンク機能、動画再生能力を高めた倍速機能など、過去2年間での急速な機能向上で、ここから先、新たな機能向上に関して手詰まり感が出てきたことも否めない。

32型パネル価格は現在、大口向け中心価格で1枚320ドル前後。今後予想される需給悪化を先取りするかのように、今年2月以降は10ドル前後値下がりした。「年末までに300ドル割れも視野に入ってきた」(ディスプレイサーチ)など、昨年後半の強気から一転して弱気の見方が広がっている。一本調子で右肩上がりの成長が見込める段階は終わり、薄型テレビも浮き沈みの激しい成熟段階にさしかかってきたとみるべきかもしれない。日本ビクターが国内で、蘭フィリップスが北米市場で薄型テレビ事業の撤退を決めたことも「成熟」を示す象徴的な動きだ。

需要に陰りが予想されるタイミングでのパネルの供給拡大が重なり、来年にかけて供給過剰に陥りそうだ。技術革新の停滞や景気悪化を背景とした個人消費の減退懸念とも相まって、この先「沈み」の局面入りは免れそうにない。