2016年2月9日火曜日

多角的な洪水対策へ

やみくもにダムをつくり続ける日本とくらべれば、劇的な変化である。米国のダムを建設する三大組織のうちでも、独立戦争時代からの伝統がある陸軍工兵隊が大規模ダムの建設に背を向けたのである。

しかし、工兵隊の変化は突然に起こったわけではない。変化のもとをたどれば、ダムや堤防では大規模な洪水に対処できないことに気づいたことであり、それは一九五〇年代の米国のダム・堤防の建設ラブソユ時代にまでさかのぼる。工兵隊は一九五三年に、洪水のときに堤防からあふれた水が流れこむ湿原を遊水池として利用しはしめた。一九六六年になると、遊水池の拡大や組織的利用を中心に、ダムや堤防のような構造物だけにたよらない「非構造的」洪水対策に乗り出していたのである。

こうした手法の転換を決定的にしたのが、一九九三年に起きたミシシッピー川とミズーリ川の氾濫だった。この洪水は、中西部の九つの州に被害を及ぼした。自然は、人工物では制御できず、洪水を予想して多角的な対策をたてるのが最善の手法だと確認された。

それ以前の一九八〇年代後半から、工兵隊の大規模なダムの新規着工はなくなっている。そして、護岸工事も減り、逆に過去の「改修工事」によるコンクリートをはがしたり、河川の直線化と堤防化で無視されていた遊水池を復活させるなど、環境回復のための支出がふえていた。こうした工兵隊の新方針の見本が、世界でも最大級のフロリダ州の大湖沼地帯エバーグレーズに流れ込むキシミー川で見られる。