2015年8月11日火曜日

相続税は重税か

以上で述べた考えに対しては、さまざまな反対論があるだろう。まず考えられる反対意見は、「相続税はすでにかなり重い負担となっているので、これをさらに引き上げるのは適当でない」というものだ。相続税の負担としてどの程度の水準が適切かは、きわめて難しい問題である。相続税に対する意見には、その人の世界観や社会での地位が如実に反映するといってもよい。

ただし、そうした議論を行なう前提として、「相続税の負担が、本当はどのようなものか」を知っておくことが重要である。なぜなら、これについては誤解が非常に一般的だからだ。たとえば、「相続税で遺産の七割がもってゆかれてしまう」と、しばしばいわれる。これは本当だろうか。確かに、相続税の税率は、最高七割まで上昇する。だから、数百億円というような遺産を一人で相続した場合には、負担率が七割近くまで及ぶのは、ありえないことではない。

しかし、このようなケースは、非常にまれなのである。普通のサラリーマンの場合にっいていえば、相続税の負担率は、むしろ驚くほど低い。とくに、土地が相続財産の主要部分を占める場合には、そうである。最大の原因は、「小規模宅地特例」にある。これは、二〇〇平方メートルまでの部分について、評価を五分の一に減額するという措置だ。他方で、子が三人いれば、基礎控除が八〇〇〇万円となる。だから、小規模宅地であれば、評価額が四億円までは、相続税がゼロになる。このように、規模があまり大きくない土地に関するかぎり、相続税の負担は、非常に低い。

もし一年間の労働収入が四億円であれば、これに対する税負担は、非常に重くなる。労働所得は、社会に対する何らかの貢献の結果として得られるものだ。日本の税制は、こうした所得には重い負担を課す半面で、親から得る資産移転(すでに述べたように、福祉社会では本来は社会化されるべきもの)に対しては、非常に軽い負担しか課していないのである。高齢者への給付の財源は相続税によるべきこと、現在の相続税は普通の人にとってはさほど重い負担を課すものではないことを述べた。