2014年7月21日月曜日

セーフティーネットの歴史性

求められているのは、新古典派的な「小さな政府」でもケインジアン的な「大きな政府」でもない。市場の不安定化に伴うリスクの増大を社会的にシェアすることによって経済を再生への軌道に載せてゆく第三の道こそが、「セーフティーネ。トの張り替えを起点に展開する制度改革」という知的戦略なのである。だが、実際には、規制に伴うモラルハザード(倫理の欠如)と呼ばれる現象自体は存在する。主流経済学も「進化」して、モラルハザードを説明する際に、その根拠を「情報の非対称」に求めるようになっている。流行の「情報の経済学」である。

この「情報の経済学」に基づけば、たとえセーフティーネットのような規制であっても、当事者間の利害が異なり。互いに「情報の非対称」が存在すればモラルハザードをもたらすことになる。つまり規制の結果を十分にチェックできなければ、必ず規制をごまかしたり、その規制を利用して利益を得ようとする者が出てくるというわけである。それゆえ、できるだけセーフティーネットを含む規制を取り払い、市場競争が働くようにインセンテイブを働かせてモラルハザードを防ぐべきだと主張されることになる。つまり規制に伴う情報の費用を低下させることによって、できるだけ完全競争に近づければよいというのである。

しかし、このような「情報の非対称」という議論は、実はモラルや公共性という問題を正面から論ずることを避けているために、しばしば論理矛盾を引き起こす。彼らの枠組みでは、一般的に情報の非対称が存在すれば、同じ制度であるかぎり、常にモラルハザードを引き起こすことになってしまうが、実際には、ある時期に有効に機能していたセーフティーネットが、別の時期に機能不全に陥ってしまうというように歴史的に変化する。彼らの枠組みでは、このセーフティーネットの歴史的変化を内在的に説明することはできない。こうした問題をセーフティーネットの歴史性と名づけてみよう。

こうしたセーフティーネットの歴史性について、事例をあげて考えてみたい。まず第一は、食管制度のような農産物価格維持制度、あるいは食糧価格統制である。食糧価格統制の縮小が暴動の契機になったインドネシアの実例を見ればわかるように、国内食糧生産が不足している場合、それは一種の社会的セーフティーネットの機能を果たす。戦後しばらくの間、日本の食管制度も、そうした役割を果たしていたと考えてよいであろう。

2014年7月7日月曜日

社会保険料と目的税

使途が限定されているという点では、社会保険料と目的税は共通です。社会保険料は医療や年金だけに使われます。現行の目的税は、道路特定財源となっている揮発油税、自動車重量税、石油税などです。

目的税は、目的遂行に適切な税ですが、財政学の面からは、目的税は財政の硬直化を招く。と批判されています。たとえば、歳入がすべて目的税の収入で構成されている予算を考えるとわかりやすいでしょう。五つの目的税があるとすれば、収入のすべてが目的税ですから、歳出も五つの目的以外には使えません。

これほど極端ではないにしろ、歳入に占める目的税の割合が高まれば高まるほど、財政の硬直化は進むのです。なにしろ他の目的には使えないのですから。社会のニーズは時代によって変化します。昔、必要とされたものが不必要になり、新たなニーズが登場します。変化に的確に対応するには、目的税はできるかぎり限定し、安易な導入は避けるべきでしょう。

社会保障、とくに年金や医療の財源として目的税をあてることはどう考えればよいのでしょうか。現在、提案されているのは、基礎年金や高齢者医療の財源として、消費税を目的税とする方法です。基本的な考えは、高齢化の負担を現役世代だけでなく、高齢者にも応分の負担をしてもらおう、というものです。主に勤労者世代が負担している所得税や社会保険料から、財源を消費税にシフトし、勤労者世代の負担を軽減しようとするねらいです。

社会保障の財源として、全額を税でまかなうと。社会保険は社会保険ではなくなります。私は社会保険方式を維持しながら、財政的関与を増大させる方法がよいのではないかと考えています。保険方式を維持するならば、国庫負担の財源全体に占める割合は二分の一以下であることが適切でしょう。現在でも多くの国庫負担が社会保険に投入されています。