2012年12月25日火曜日

近代西洋医学の思考方向

それらはバストゥールの、醗酵現象の観察を糸口にして、一八八二年のコッホの結核菌の発見へとつながった。彼は実験技法の確立と、病原体を特定の病気にあてはめる際の理論的三条件(コッホの三原則)を提示し、これによって「医学は実験室で開発されることと」(中川米造著『医療の文明史』日本放送出版協会)なり、その後の病原性細菌類の大量発見へとつながった。

病原性細菌類の大量発見の詳細を述べることは本意ではないが、これらの発見によって、疫病と恐れられたコレラなどの病気克服への確かな槌音がヨーロッパの人々の心に与えた、「科学の優秀さ」に対する信頼感の強さについては、注意しなければならないと思う。さらには。「病気にはかならず特定の細菌による病因があること」、また「真実は一つでかならず実証されるべきものであること」、そしてこのような、「科学的思考」こそ近代人は持つべきだという思考方法の大変革、つまり、病気観をはじめとする価値観の一大転換が人々の心に起こったことについては、評価しつつも、注意しなければならないと思う。

それらを知り得る地位にいた行政官や知識人たちは、医療などの専門家が器具を使って菌を培養し、顕微鏡で調べてまた実験をくりかえすという科学的な態度と、そこから出た「科学的な数字」こそが病気克服の決め手とみなしたのである。見えないものを見えるようにして眼前につきつけられ、行きづまっていた恐ろしい病気の克服に、まず消毒、殺菌、あるいは隔離などの新しい方法と可能性が次々と見出され始めたのだから、人々がそのすばらしさに目をうばわれてしまったのは当然であったろう。

こうしてこれら近代西洋医学の思考方向は、それを知り得た人々(西欧の人々も、日本の人々も)の心を強い力で魅了した。そのため日本でも、それまで行なわれていた有用、無用の民間医療や伝統医療、とくに日本でそれまで採用されていた東洋医学的考えに基づく漢方医療が「非科学的」の名のもとに否定され、科学的に実証されうる西欧医学のみが、知識においても方法論においても採用されたことは、その後の医療やお産の歴史において大変重要である。

なぜなら、それまで行なわれていた病気癒しの方法は、人々が持っていた文化、つまり生命観や人間観や宗教観や、それら全体をひっくるめた宇宙観(コスモロジー)と、非常に深く、結びついていたからである。当時の日本の人々は(私か山村で聞いたように)、誰かが病気になったら、「まず山伏さんを呼び、おはらいをしてもらった」ものらしい。「何のさわりかを聞き、山伏さんにそのさわりをはらってもらい、皆で祈り、それでも治らない時はじめて医者を呼んだ」のである。

しかし「ほとんどの場合、おはらいしてもらっただけで治った」ものだったようだ。それが病気を治す方法であった。そのため病気に対する考え方の転換は、病気だけでなく宇宙観そのものの転換を人々に迫ったのである。以上の例からもわかるように、当時の人々は、心と身体は一体であり、病気についても「心から治った気」がしなければ、治りはしないと考え、個々人の心の状態を「治る気」にさせるために、心身という小宇宙の中のバランスのくずれをもたらした原因(意識的、あるいは無意識的に、相手に悪いことをしてしまった場合など)をつきとめ、相手(人間、動物、祖先の霊など)との間のわだかまり(さわり)をはらい、その関係を修復してはじめて、心身の平安が得られると考えたのである。

2012年9月3日月曜日

状態的鑑賞家

したがって赤頭巾の童話をよめば、狼にむかって「にくらしい」という感情が私のなかでおこると同時に、狼そのものに「おそろしさ」という感情がなけいれられ、女の子の身の上にむかっては「パラパラ」させられる。このところをドイツの美学者フォルケルトがひいたオセロをたとえにとって説明しよう。

「オセロが恋の思慕にもえ、つぎに恋の幸福にふけり、それから嫉妬になやまされ、最後に自分の思いあやまりを洞察し、後悔と絶望のうちに死ぬ劇を私がみたときに、オセロがこれらの感情にみたされて私の面前にあらわれうるためには、私はそれらの感情のことごとくを私自身のなかからひきださなければならぬ。

オセロが私にとって無意味な仮面以上のものでありうるためには、私の意識のなかで、恋の思慕、恋の幸福、嫉妬などか生まれなければならぬのである。しかもこれらの感情は、私の意識のなかに生まれながら、それらか私にではなく、かえって向側の対象に属するという直証的確実性をともなっている。私はそれらの感情をもつ場合に、意識の私への所属性を省略する。私はそれらの感情を対象のなかになげいれて感じ、したがってこれらを『感情移入』された、向側の人物あるいは物に合体した感情としてもつ。これか『対象感情』である。

これに反し、もし私かオセロに対して驚嘆を感じ、つぎに彼のためにおそれ、彼に同情し、彼に戦慄を感じるならば、これらは私の個人の側の感情であり、しかも相手と自分との『関係感情』である。関係感情か肯定的か否定的かはすぐわかることで、私どもはその人物の方に向くか、それとも彼からそむくかである。それから最後に、もし私がこの戯曲によって圧倒され、興奮させられ、攬乱させられるならば、この感情は私の直接の自我の『状態感情』である」。

これでわかるとおり、音楽をあじわう人には二つの型があるようである。第一は、ベートーヴェンをきくときにはベートーヴェンにそなわる感情、ブラームスのときはブラームスにそなわる感情に同化して、先方の対象的性質そのままに自分をうつしいれてきく「対象的鑑賞家」である。もう一つの型は、だれの音楽をきいてもどの曲でも、自分のなかに生じたよろこびやかなしみをたのしむのを目的とする「状態的鑑賞家」で、音楽ずきとはいっても、ほんとうは曲をきいているのではなく、自分自身をきいている人々である。

感情移入

ベートーヴェンの第九交響曲にぎきいるとき、私たちは偉人な人間が世界の根心的叫ぶと苦闘し、きずつき、やぶれ、しかもこの苦闘をとして人間が此岸をとる悲劇的な道行きと、崇高な終末とか感じる。この楽曲をとおして私たちのなかに牛の苦しみと偉大さへの憧れの感竹かよびさまされると同時に、曲そのものに悲壮尨と崇高の美がそなわっていることを私どもは感じる。第九交響曲が壮大なのはあらためてとりあげるまでもないあたりまえのことだが、考えてみればその「あたりまえ」かまことにふしぎでもある。

私どもの耳にひびくものは、絃と管と打楽器の幾種かのくみあわせでなった物理的音響であるが、この音響に、かなしさ苦しさ、よろこばしさ大きさが内在している。ことは楽曲という作曲家の心の表現されたものでなくてもかまわない。音階を上下する簡単な旋律でもかおりはなく、長調は音のなかに積極的な快活の感情をもち、短調には受身のやわらかさと悲哀がそなわっている。

富士山という円錐形の地塊が、私どもだれがながめても「気だかく」みえるのも、気づいてみればおかしなことである。この山が気だかくみえるのは、まず第一に上へ上へと高まろうとする形からくる「偉大さ」のためであるが、それには第二の条件がなければならぬ。この山に似たものがほかにはないということである。

富士山が類型的存在でなく、唯一不二のものだということである。みずからつねに高まろうとする形の山は、富士にかぎらず日本アルプスにもいくらもあるが、しかしそれがいくつもならんで類型となっているために、この諸峰は気だかさをもたぬ。富士の場合、崇高性という点には多少消極的なところもしかしあるので、肌が理想にちかくなだらかで調和的整合的にできていることは、むしろ女性的な「優美」のかたむきをもつ。

ほんとうの崇高は偉大さという内容が調和的形式をなかからやぶっていることを、どこかに破綻をみせていることを要するものであるから。それで崇高性をもって富士を表現しようとする画家たちは、事実以上に傾斜を急にし、肌にいくすじかの深いひだをあたえ、頂上の火口の凹凸を鋭角的なぞぶれ目としたのであった。私どもはこのようにまわりのものすべてに自分のなかで生まれた感情を吹きこんで先方にあたえながら、それをもともと先方に内在したものだと感じているのである。

2012年8月1日水曜日

ビアードの分類

どのような人間たちが民主党の支持者となるのであろうか。彼らは共和党の支持者とは、何か違った特徴とでもいえるものをもっているのであろうか。アメリカの政党の支持層の違いについて、著名な歴史学者のチャールズ・ビアードは次のようにのべたことがあった。

アメリカのなかの富める者が引きつけられる重心点は、共和党にある。反対に貧しい者が引きつけられる垂心点は、民主党にある。

このビアードの観察は正しいのだが、いくつかの脚注を必要とする。アメリカで富める者といえば、銀行口座の残高の大きさで表現されるような、単にお金持ちであるという状態ではない。むしろ社会的な要因がつきまとっており、ほぼ次のような背景が自動的に連想されるのである。

高等教育を受けている。白人である。社会的に高いとみなされている職業についている。肉体労働者ではない。都市の中心の高級住宅街か。郊外に住んでいる。宗教はプロテスタント(キリスト教のうちの新教)である。

貧しい者というのはこの反対側にある人物で、たいていは高等教育を受けておらず、非白人が中心になっている。白人であったとしても、肉体労働に従事している者が多く、社会的にあまり高いとはみなされない職業についている。

住居は環境の悪い都心部にあることもあるし、郊外の一角にあることもあるが、いずれにせよ狭いところに住んでいる。同じキリスト教でも、カトリック教徒は大体がこの分類に入る。

もちろんこのような分類は大ざっぱなものであって、実際にはさまざまな例外や特殊事情がからまっているが、それにしてもアメリカの政党の支持層に、ある種の社会階層の差とでもいったものがつきまとっているというのは、避け難い事実である。このような状況は、ミシガン大学がおこなった一九四八年から六〇年にかけての調査でも明らかとなっている。

2012年7月11日水曜日

「俺を捕まえたらX JAPANファンが黙ってない」

元X(現XJAPAN)のベース・TAIJIさん(享年45)が、ベッドのシーツを使って首吊り自殺を図ったのは、7月14日夜、拘束されていた米自治領サイパン島の留置場でだった。すぐに現地の救急病院に運ばれたときすでに脳死状態で、自力で呼吸もできない状態だった。その後、生命維持装置で懸命な処置がとられていたが、運ばれ、ICU(集中治療室)で治療を受けて現地入りした親族や婚約者の同意を得て、装置が外され、そのまま帰らぬ人となった。

この悲しい結末の始まりは、はるか上空で起こったある事件がきっかけだった。TAIJIさんは7月11日、成田空港午前10時25分発・デルタ航空298便に搭乗した。「トレードマークの真っ黒いサングラスをかけていました」(居合わせた乗客)

この女性によれば、TAIJIさんが突然、前列の乗客の座席を蹴り始めた。しばらくすると、興奮してからも、ふたりはずっと口論していた。離陸して声を荒らげ、暴れ始めた。何度も蹴り続けるため、その乗客もクレームを入れると、さらにTAIJIさんの“ビジネスマネジャー"とされるA子さんだったという。離陸10分前に機内にはいってきたふたりは、このときすでに険悪な雰囲気だった。

騒ぎに気がついた女性客室乗務員が駆けつけたが、事もあろうにTAIJIさんは、この乗務員らに向かって蹴り上げるなどの暴行を加え始める。さすがにこれは危険だと、居合わせた一般の男性客など数人がかりでTAIJIさんを取り押さえて、後ろ手にテープで縛り、拘束したという。

このとき彼は、「おれを捕まえたらXJAPANファン1万人が黙っちゃいねーぞ!」などと大声で叫んでいたという。そして、サイパンに着陸して飛行機のドアが開くのと同時に現地警察がなだれ込み、あっという間に身柄を拘束され、逮捕となったのだった。

2012年7月4日水曜日

ウコン、がんにも有効 世界的研究者が報告

酒の悪酔い防止に効果があるとされるウコンが、がんや心臓病の予防・治療にも効果を持つ可能性が高い。医薬品メーカー「セラバリューズ」(東京都千代田区)が1日に行った研究発表会「ウコン成分“クルクミン”の多様な機能と応用研究の最前線」で、日米の研究者がこのような報告を行った。

都内で行われた発表会には、クルクミン研究の世界的権威で米テキサス州立大MDアンダーソンがんセンター教授のバラット・アガワル氏や日本人研究者ら計5人が参加した。

この中で、アガワル氏は「クルクミンを摂取すると、がんのリスクが低減するほか、肥満、糖尿病、高脂血症などほとんどの慢性疾患を予防できることが実験で示されている」と強調した。

秋田大大学院医学系研究科の柴田浩行教授も「大腸がんの治療中にクルクミンに出合った。クルクミンは数多くの病気の因子を標的にできる成分として期待できる」と報告した。

このほか、静岡県立大薬学部の森本達也教授が「心臓病にも効果がある可能性が高い。現在臨床を進めている」と説明した。

京都大医学部の金井雅史助教は、膵臓(すいぞう)がん治療の新薬としてクルクミンが注目されていることや自然由来の成分であり安全性が極めて高いことを紹介した。

2012年6月15日金曜日

耐用期限はとっくに過ぎた4万ものダムに決壊の危険性=中国

ダムが決壊すれば数万人が住居を失うことになる。中国ではその危険が目の前にせまっている。世界でダムをもっとも多く擁する中国で、現在、史上最大規模の危険性があるダムの補修工事が展開されている。

1950-70年代、中国は世界でダムがもっとも多い国になった。目下、8万7000カ所のダムに品質や建設レベルに問題があり、またほとんどが小型ダムの90%以上が土つくりのフィルダムだ。だが、当時の技術レベルや経済的な条件の影響で、多くのダムが存在し、ほとんどがそのころに建設されたものだ。その寿命はほぼ50年といわれており、基本的にその耐用期限は過ぎている。しかも、これから数十年使用するに当たり、必要とされるメンテナンス費用が不足しており、潜在的な危険性のあるダムは半分以上で4万カ所以上という。

この4万カ所を超える危険ダムのほとんどは広大な農村部に点在しており、また一部の県や市の上流に当たる。過去の統計によれば、全国で水没する中都市は285カ所で全国の都市全体の25.4%、同じく水没する大都市は179カ所で全国の16.7%を占める。

「古いダムの危険性は高い。一度、決壊すれば、家も田畑も工場も鉄道も、都市全体を飲み込んでしまう。
ダムの安全は今までの政府も重視してきた。」国家水利建設管理司ダム所の徐元明所長は「中国経済周刊」の取材に対し、重視しているものの、完全には避けられないと表明している。

全国のダムの半分に危険性1998年の長江洪水以降、水利部ではもう一度、全面調査に力を入れている。全面調査によれば、潜在的な危険性のあるダムは50%以上という。

重要度に応じて緊急性を鑑み、水利部門では計画を編成し始めている。最終的に2008年の「全国潜在的危険性のあるダムの補強工事計画(以下、ダム計画)」を発表、中国および世界でもっとも集中的で最大規模となるダム補強工事を開始した。

今までの3年間で、中国は620億元(約7440億円)以上を投資、7356カ所の潜在的な危険性のあるダムに補強工事を行い、ほぼ計画の目標を完遂している。

2011年、水利部は、補強工事により基本的に637カ所の県クラス以上の都市および1.61億ムー(1ムーは約6.67アール)の田畑、重要なインフラがダム決壊による洪水の危険性から開放されたという。これによりダム下流に住む1.44億人の生命および財産の安全も保障される。今後5年間で、中国は潜在的な危険性のあるダムすべての危険性を消滅させる決意だ。

2012年6月7日木曜日

ニセ菅ツイッター、少なくとも5人確認。

ツイッター上に現れた菅直人首相の偽者。現在は消えている 。140文字以内の「つぶやき」をネットで世界中に発信できる簡易投稿サイト「ツイッター」。

自分の考えを気軽に知らせることができる便利なツールだが、一方で常につきまとうのが真(しん)贋(がん)問題。ネット選挙解禁を目指す改正公職選挙法の議論でもこの点が課題になっている。

「これを機に始めることにしました」

ツイッター上に「kann_naoto」を名乗る人物のつぶやきが出現したのは民主党代表選があった今月4日頃。菅首相の顔写真も張り付けられていた。

「あの菅さんか」と勘違いしたフォロワー(閲覧者)はすぐさま約1万人に。だが、菅首相はツイッターで発信したことがない。

不審に思った民主党の藤末健三参院議員が4日夜、菅氏の秘書に電話し、なりすましが発覚。偽者は少なくとも5人確認された。藤末議員はツイッター上で「(菅さんは)まだ始めておられません」と投稿した。

そこで、民主党も、ツイッター上で、「ぜーんぶ偽者!!」と発信。さらに5日午後には報道各社に発表し、偽者たちは姿を消していった。同党広報委員会は「自由がネットの良さとはいえ……。悪意ある中傷や攻撃の場合は法的処置も考えなければ」とする。

ネット調査会社「ネットレイティングス」(東京)によると、国内のツイッター利用者は750万人(3月現在、パソコンのみ)を突破。メールアドレスさえあれば誰でも気軽に参加できるが、同時に、他人になりすますことも簡単だ。昨年12月には鳩山前首相の偽者が登場したほか、今年に入っては、東京大や早稲田大からの正式な投稿を装うケースも出た。

こうしたトラブルを防ぐため、米・ツイッター社は、有名人については認証制度を設けている。本名とメールアドレス、公式サイト、登録名などをサイト上から送信し、認められると、画面の右側に丸い緑のマークが表示される。

日本国内では、8日現在で国会議員19人を含めた52人・団体がお墨付きを受けた。しかし現在、与野党で90人近い国会議員がツイッターを使っているとみられ、認証はまだ5分の1程度だ。

今夏の参院選からネット選挙を解禁しようと、5月末、公選法改正案について与野党が合意した。だが、ツイッターについては、候補者が使うことを禁止はしないが、使わないよう自粛を呼びかけるという中途半端な取り扱いになっている。「なりすましによるウソ情報を防げない」という心配がその理由だった。

ツイッターに詳しいジャーナリストの津田大介さんは「ツイッターは、フォローするとメッセージが自動的に送られてきて、それが自由に引用され、広く波及していくメディア。それだけに、認証などで悪意あるなりすましを防ぐ仕組みが必要だが、一方で見る側もうのみにしないで冷静に判断する力が求められる」と指摘している。

2012年5月17日木曜日

ゴルフ会員権相場が示す時代の変遷

東京都心から自動車で約1時間の好立地、しかもゴルフ場設計の鬼才、ピート・ダイ設計の名コースが231万円。オリックス・ゴルフ・マネジメント(東京・港)が2007年11月に会員権を募集した「きみさらずゴルフリンクス(GL)」の価格設定は、業界に衝撃を与えた。

競技志向の名コースにもかかわらず値ごろ感のある価格は、ゴルファーの人気を集めた。昨年実施した350人分の初回募集は、2カ月という短期間で終了。キャンセル待ちも発生している。

ゴルフ会員権相場は、バブル期に投機の対象となり高騰した。関東ゴルフ会員権取引業協同組合のまとめでは、関東の主要150コースの平均で、1989年のピーク時には4100万円を超えた。ところが、バブル崩壊とともに値崩れし、2002年には270万円程度と15分の1まで下がった。

会員権相場暴落の一因となったのが当時、多くのゴルフ場が採っていた預託金制度。入会時に支払った金額の一定割合を入会から10―15年程度たって退会する場合には返還するという契約だった。しかし、多くのゴルフ場経営会社は、預託金をゴルフ場開発の再投資に振り向けた。バブル崩壊で、高額で会員募集したゴルフ場では預託金を返還できない例が相次ぎ、多くのゴルフ場で破綻につながった。

実は、きみさらずGLは、預託金なし入会金のみでの募集だった。破綻したゴルフ場を買収してきみさらずGLの運営会社となったオリックス・ゴルフ・マネジメントの枩埜(まつの)義敬社長は「預託金は諸悪の根源。買収前の旧会員がいない場合の新規募集は、預託金なしが望ましい」と語る。

関東主要150コースの平均価格は現在、400万円台前半まで回復している。全国ゴルフ場の年間入場者数は2000年以降、9000万人程度で推移している。バブル崩壊で法人需要が減少したため、ピーク時の92年に比べると10%以上減った。ただ、女子プロやジュニアの人気選手の出現で女性や家族層、高齢者へと「ゴルフ人口のすそ野は広がっている」(枩埜社長)という。

一時は投機の対象だった会員権だが、最近は、ゴルフをスポーツとして楽しむために購入する個人が相場を下支えしている。

ゴルフ場の破綻も減っている。帝国データバンクによると、07年ゴルフ場経営業者の破綻は49件で前年より5件少ない。負債総額は6889億円で、前年より8.4%増えたものの、ピーク時だった02年の2兆1897億円に比べると7割も減った。

破綻ゴルフ場がもたらした巨額の負債は、金融機関の破綻にもつながった。公的資金の注入を受けたある大手銀行の元頭取は「銀行のバランスシートは、世の中の欲望の裏返し」と語る。かつて、人々の欲望を引き付けたゴルフ場。個人に巨額な損失をもたらしたうえ、銀行への国税投入も招いた。高い授業料を払った後、ようやく、マネーの世界からスポーツの世界へと戻ってきたようだ。

2012年5月9日水曜日

菜種かす荷余りで食用油メーカーが苦境

食用油メーカーが菜種油を搾りにくい状況に陥っている。搾油と同時に出てくる菜種かすの荷動きが高値を背景に低迷し、搾油工場に菜種かすがあふれているためだ。食用油各社は菜種かすを値下げして在庫一掃を図っている。

「菜種かすが工場にあふれかえっている」。食用油メーカーの役員は困惑した表情で話す。同社の工場の倉庫は菜種かすで満杯。あふれた菜種かすは外部の倉庫に預けているという。

菜種かすは油分を除いてあるので長期間保存しても品質劣化の心配はないというが、外部の倉庫を借りれば費用が発生する。収益確保のためにもできれば早く在庫一掃したいのが食用油メーカーの本音だ。

菜種かすは配合飼料や肥料になる。肥料向け需要が高値で落ち込んだことが荷動き低迷の主因。菜種かすは原料の菜種価格の高騰を背景に値上がりを続け、ここ1年半で7割上昇、東京市場では1キロ42円を付けた。果樹農家は価格高騰を嫌って、果樹に与える菜種かすを減らしたり、割安な化成肥料にシフトしたりしている。

3月からは食用油メーカーは需要を喚起するため価格を引き下げて販売している。足元の市中価格は1キロ38円とピークの3月と比べて4円(9.5%)下がった。値下げで農家の買い付け意欲は少し上向いたものの、在庫を一掃するまでには至らない。

食用油メーカーのなかには、菜種油の生産を抑制し、同じ主力食用油の大豆油に生産の力点を移している。「大豆油が健康増進につながるというイメージを強調していく」(食用油メーカー)という。食用油は一般に菜種油と大豆油を混ぜて使うが、大豆油の分量を増やす食用油メーカーも出ている。

とはいえ、商品の品ぞろえを維持するには菜種の生産は不可欠で、菜種油を生産すれば菜種かすは発生する。在庫一掃の願いは遠のく。ある食用油メーカーの役員は「さらに菜種かすを値下げするしか解決策はない」と話す。菜種かすの価格基調は一段と弱まりそうだ。

液晶テレビ市場の成長、踊り場到来の兆し

近年急速に普及が拡大してきた液晶テレビ。10年ぐらい前まではブラウン管テレビが当たり前だったのが、いまでは「おまえの時代は終わった」とばかりに薄型大画面の液晶テレビは家電量販店の目玉商品となっている。技術革新による製品の進化が消費を喚起するといった戦後の日本経済の成長パターンを踏襲し、薄型テレビは期待の成長商品と見込まれている。だが、基幹部品である液晶パネルの市場をみると、早くも踊り場にさしかかってきた兆候が現れている。

売れ筋サイズとなっている32型のテレビ用液晶パネルの大口取引価格は昨年4月以降、年末までに9%上昇し、過去初めて値上がりに転じた。通常、デジタル家電製品に使うハイテク電子部品の多くは市場投入の直後が最も高く、絶え間ない技術革新による陳腐化や生産効率改善によって値下がりしていくのが一般的。昨年の液晶パネルの価格上昇は値ごろ感が出てきた薄型テレビへの消費が急激に盛り上がったため、パネルメーカー各社の生産能力拡大が追いつかずに需給が逼迫(ひっぱく)したことが背景となった。

その結果、パネル各社は価格上昇で収益が拡大する一方、需要家のテレビメーカーからの供給拡大への要請の強まりもあって、設備投資拡大が喫緊の課題となった。シャープを始め、韓国サムスン電子、台湾の友達光電など日韓台の主要パネルメーカーが来年、再来年にかけて設備の新増設が相次ぐ。

一方、需要のほうは、ヤマ場となる北京五輪が終わった後、来年にかけて世界的な景気悪化懸念も背景に鈍化を予測する見方が増えている。米調査会社のディスプレイサーチによると、世界の液晶テレビ需要は07年に7933万台と前年比73%増えたが、08年は32%増、09年以降は10%台に成長率は鈍化。このうち、日本市場をみると、07年は772万台と35%増加したが、08年以降は10%以下の低成長となり、デジタル放送への完全移行後の2012年には減少に転じると予測している。

テレビメーカー各社の新製品戦略をみても「消費喚起につながる機能面での決め手がなくなってきた」(調査会社BCN=東京・文京)との指摘が出てきた。例えば、サイズでは32型前後に売れ筋サイズが落ち着いてしまい、50型、60型などの高価格帯製品は富裕層向けなど限定的需要にとどまり、大型化による消費喚起は見込めなくなった。高画質のハイビジョン対応やリモコンの操作性を向上させるリンク機能、動画再生能力を高めた倍速機能など、過去2年間での急速な機能向上で、ここから先、新たな機能向上に関して手詰まり感が出てきたことも否めない。

32型パネル価格は現在、大口向け中心価格で1枚320ドル前後。今後予想される需給悪化を先取りするかのように、今年2月以降は10ドル前後値下がりした。「年末までに300ドル割れも視野に入ってきた」(ディスプレイサーチ)など、昨年後半の強気から一転して弱気の見方が広がっている。一本調子で右肩上がりの成長が見込める段階は終わり、薄型テレビも浮き沈みの激しい成熟段階にさしかかってきたとみるべきかもしれない。日本ビクターが国内で、蘭フィリップスが北米市場で薄型テレビ事業の撤退を決めたことも「成熟」を示す象徴的な動きだ。

需要に陰りが予想されるタイミングでのパネルの供給拡大が重なり、来年にかけて供給過剰に陥りそうだ。技術革新の停滞や景気悪化を背景とした個人消費の減退懸念とも相まって、この先「沈み」の局面入りは免れそうにない。

2012年4月17日火曜日

底堅い紙価格、製紙各社の切迫感映す

「紙の卸価格の下がり方は、今までのパターンと違う」。都内の印刷会社社長は、昨年12月から今年2月の不需要期をこう振り返った。これまではいったん値下がりが始まると、値上げ交渉での値上がり幅をほぼ帳消しにするほど一気に下がることも珍しくなかった。しかし、今回の下落は限定的で底堅いという。

製紙各社は昨年7月に印刷用紙の出荷価格を10%値上げした。代理店(一次卸)や卸商(二次卸)も、印刷会社への卸価格を10%上げた。今年になって卸商の販売分を中心に1―3円の下落がみられたものの、それ以上の広がりはない。

代理店役員が理由を説明する。「製紙大手が需要家の値下げ要求に応じない」。製紙会社にとって、予想を超える原燃料高に見舞われている事態に加えて製品価格が下がるのは最悪のシナリオだからだ。

重油や石炭、古紙などの値上がりは経営に大きなショックを与えた。実際、王子製紙は22日、2008年3月期の連結経常利益見通しを470億円から381億円に下方修正すると発表した。そんなときに、どこか1社が値下げ取引に応じていけば、情報がすぐ市場に伝わり、市況悪化のスパイラルに陥る。

だから製紙会社は出荷価格を変えていない。値下げの余地は流通業者の口銭分にしかなく、市中価格の下落幅は抑えられる。今回、値下がりが広がらなかったところに、原燃料高の転嫁を急ぎたい製紙会社の切迫感がうかがえる。

製紙各社はさらに、5月下旬―6月1日出荷分から15%の値上げを代理店に表明した。再生紙偽装問題は消費者やユーザーに混乱を引き起こし、不信をまねいた。しかし、昨夏の値上げ以降に市中価格が横ばいで推移し続けてきた事情から推し量れば、製紙会社は今度もコスト転嫁の姿勢を強く打ち出してくるのは間違いない。

2012年4月10日火曜日

石化「2008年問題」じわり表面化

中東産油国が石油化学製品を増産し、東アジア市場の需給が大幅に緩むという石化の「2008年問題」。今春その兆しが表れた。石化原料エチレンの価格が暴落したのだ。

東アジアのエチレン価格は3月までの2カ月間に1トン1420ドルから1200ドルへ15%下がった。「これほど急な下げ方は極めてまれ」(商社)と業界関係者を驚かせた。

構図はこうだ。イランをはじめとする中東諸国で、エチレンの生産設備が年初から相次ぎ稼働。食品包装に使うポリエチレンなど石化製品の工場は未稼働のため、消費できないエチレンが東アジアに流れ込み需給を緩めた。

エチレンの値下がりを受け、韓国やインドネシアのエチレン工場は減産に着手。エチレン価格は現在持ち直している。中東の石化会社は油田から出るエタンガスでエチレンを造る。エタンガスは東アジアの石化各社が使うナフサ(粗製ガソリン)より大幅に安い。このためポリエチレンなど製品の価格競争力が格段に高まる。

イランやサウジアラビアではエチレン増産に続き、ポリエチレンやエチレングリコールなども「今秋には大増産が始まる」(商社)。

国内ポリエチレン大手の首脳は危機感をあらわにする。「中国の石化製品需要の拡大ペースが鈍るとされる五輪後、中東品が流入すれば値崩れが起きる」

もっとも国内各社はただ手をこまぬいているわけではない。自動車部材などになる高機能品の比率を高め、汎用的な中東品との競争を避けようと躍起になっている。商品力に磨きをかけ差別化できれば、日本の石化は国際市場で強みを増す。逆境を成長のステップにつなげられるか。2008年は正念場だ。

大手航空の株主優待券、「相場」は低空飛行

東京都内の金券ショップで、6月から利用できる大手航空会社の新しい株主優待券が並び始めた。民営化20周年で発行した日本航空(JAL)の優待券価格が、全日本空輸(ANA)に比べ安値で販売されている。

株主優待券は年に2回発行され、流通市場に出回る。国内線の全路線で片道の普通運賃が5割引きとなる。販売価格はJALが1枚6500―8000円、ANAが9000―9500円程度。ANAは昨年同時期とほぼ同値なのに対し、JALは1000円程度安く販売する店舗が見られる。

買い取り価格はJALで5500―6000円程度。新しい優待券が発売された当初は、買い取り価格より2000―3000円程度上乗せして、利益を稼ごうとする金券店が通常は多い。しかし、6500円で販売する店の利益はざっと500―1000円程度。「今年は記念優待券の発行でJALの供給量が増えたことから、1枚当たりの利益は少なくしても、販売数量で稼ごうという動きが出た」(金券店)。

販売価格を見ると、ANAがJALに比べ1000―3000円高く、「この価格水準ではほとんど売れない」(金券店)。荷余り感が強まり、JALの価格にさや寄せする形で今後値下がりするとみられている。
優待券の価格は、旅行や帰省需要が高まる7月後半から例年、値上がりする。ただ、店頭の中心価格をみると、現時点ではJALで8000円、ANAで9000円程度。金券店では「おおかたの店は、安売りすることで、儲けが減ることを恐れている」という。6500円などの安値が一部店舗のとどまれば、優待券販売量が伸びず、夏の需要期ごろになって価格競争が活発になる可能性もある。

金券ショップはハイウェイカードや紙の高速券がなくなるなど取り扱い品目が減っており、市場規模も縮小しつつある。航空会社の株主優待券は、残された数少ない利益商材のひとつ。JALの発行拡大による供給過剰が重しになっているが、価格の付け方次第で各社の利益を大きく左右するだけに、他店の動向をうかがいながら慎重に値付けをする傾向が強まっている。