2012年5月9日水曜日

液晶テレビ市場の成長、踊り場到来の兆し

近年急速に普及が拡大してきた液晶テレビ。10年ぐらい前まではブラウン管テレビが当たり前だったのが、いまでは「おまえの時代は終わった」とばかりに薄型大画面の液晶テレビは家電量販店の目玉商品となっている。技術革新による製品の進化が消費を喚起するといった戦後の日本経済の成長パターンを踏襲し、薄型テレビは期待の成長商品と見込まれている。だが、基幹部品である液晶パネルの市場をみると、早くも踊り場にさしかかってきた兆候が現れている。

売れ筋サイズとなっている32型のテレビ用液晶パネルの大口取引価格は昨年4月以降、年末までに9%上昇し、過去初めて値上がりに転じた。通常、デジタル家電製品に使うハイテク電子部品の多くは市場投入の直後が最も高く、絶え間ない技術革新による陳腐化や生産効率改善によって値下がりしていくのが一般的。昨年の液晶パネルの価格上昇は値ごろ感が出てきた薄型テレビへの消費が急激に盛り上がったため、パネルメーカー各社の生産能力拡大が追いつかずに需給が逼迫(ひっぱく)したことが背景となった。

その結果、パネル各社は価格上昇で収益が拡大する一方、需要家のテレビメーカーからの供給拡大への要請の強まりもあって、設備投資拡大が喫緊の課題となった。シャープを始め、韓国サムスン電子、台湾の友達光電など日韓台の主要パネルメーカーが来年、再来年にかけて設備の新増設が相次ぐ。

一方、需要のほうは、ヤマ場となる北京五輪が終わった後、来年にかけて世界的な景気悪化懸念も背景に鈍化を予測する見方が増えている。米調査会社のディスプレイサーチによると、世界の液晶テレビ需要は07年に7933万台と前年比73%増えたが、08年は32%増、09年以降は10%台に成長率は鈍化。このうち、日本市場をみると、07年は772万台と35%増加したが、08年以降は10%以下の低成長となり、デジタル放送への完全移行後の2012年には減少に転じると予測している。

テレビメーカー各社の新製品戦略をみても「消費喚起につながる機能面での決め手がなくなってきた」(調査会社BCN=東京・文京)との指摘が出てきた。例えば、サイズでは32型前後に売れ筋サイズが落ち着いてしまい、50型、60型などの高価格帯製品は富裕層向けなど限定的需要にとどまり、大型化による消費喚起は見込めなくなった。高画質のハイビジョン対応やリモコンの操作性を向上させるリンク機能、動画再生能力を高めた倍速機能など、過去2年間での急速な機能向上で、ここから先、新たな機能向上に関して手詰まり感が出てきたことも否めない。

32型パネル価格は現在、大口向け中心価格で1枚320ドル前後。今後予想される需給悪化を先取りするかのように、今年2月以降は10ドル前後値下がりした。「年末までに300ドル割れも視野に入ってきた」(ディスプレイサーチ)など、昨年後半の強気から一転して弱気の見方が広がっている。一本調子で右肩上がりの成長が見込める段階は終わり、薄型テレビも浮き沈みの激しい成熟段階にさしかかってきたとみるべきかもしれない。日本ビクターが国内で、蘭フィリップスが北米市場で薄型テレビ事業の撤退を決めたことも「成熟」を示す象徴的な動きだ。

需要に陰りが予想されるタイミングでのパネルの供給拡大が重なり、来年にかけて供給過剰に陥りそうだ。技術革新の停滞や景気悪化を背景とした個人消費の減退懸念とも相まって、この先「沈み」の局面入りは免れそうにない。