2013年7月4日木曜日

日本に残された人材のロケット

実際問題、「男は仕事、女は家庭」という生活スタイルは、高度成長期以前の、国民の多くが農民か商人か職人であった時代には、単なるスローガンであって現実ではありませんでした。そうした家業の世界では奥さんもほとんどが旦那さんと一緒に働いていたからです。零細農民の場合には旦那が炊事の分担も子供の相手もしていましたし、零細な漁師であれば夫婦で船に乗っていました(これは今でもそうですが)。商家であれば旦那が行商に出ておかみさんが差配をするのがごく当たり前のことでしたし、武士にしても下級武士であれば夫婦で内職も畑仕事もしていました。

そうした伝統を忘れ、女性を家の中に無職で閉じ込め始めたのはいつからなのでしょう。生産年齢人口が激増する中で、彼らの多くを企業が戦士として吸収した高度成長期以降のことなのです。女性の結婚退職を勧奨したのは、どんどん学校を卒業してくる若い男性のために席を空けさせなければならないという経済的な要請があったからでした。でももう十分です。出生率は激しく低下しましたし、新卒学生が年々減り始めた一九九七年以降は、逆に定年退職者が新卒就職者を上回り続けています。よく「俺は仕事をしてるんだ、家庭はお前が守れ」と威張る男の姿がドラマなどに出てきたものですが、今の日本に本当に大事なのは、仕事と称して縮小する市場相手に死に物狂いの廉価大量生産販売で挑むことではなく、家庭を大事にして再び子供が生まれやすい社会にすることでしょう。

その重要な責務を、女だけに担わせて男は担わないというのは、時代錯誤も甚だしい。仕事が大事で家庭が後回しというのは、今世紀の日本ではもはや社会悪のレベルに達した考え方です。ここらあたりで歯車を逆に回し、企業戦士の家庭を専業主婦に守らせるという戦後日本に特殊な生活習慣をやめてはいかがでしょうか。ここまで申し上げてきても、日本で女性の就労を進めるには、さらに三つの壁があります。それは、①男の側の心の壁(「自分は女ではない、男である」ということを誇りに思うように釈けられてきた一部男性の「人格形成不全」)、②女の側の心00壁(女が頑張ると女が足を引っ張るというさみしい現象)、そして心ではなく③現実の壁(働く女性の代わりに家事を誰が分担するのか)、の三つです。心の問題に関しては、若者への教育を改善しつつ世代交代を待つしかないともいえますが、最後の問題については、明らかに心強い援軍が存在します。企業社会から退場しつつある高齢男性です。彼らが社会人として蓄積してきた能力と手際を持って、若い女性の代わりに家事に当たれば、その分彼女たちは所得を得て経済を拡大することができ、高齢男性の側も家族の賞賛を得ることができます。

日本に残された人材のロケットの三段目、未就労女性に点火するためにも、ぜひ一段目のロケットだった団塊世代にもうI踏ん張り果たしていただきたいものと、切に願っています。ではどうすればいいのか③労働者ではなく外国人観光客・短期定住客の受入を最後に第三の策としてお話しするのが、訪日外国人観光客・短期定住客の増加です。「外国人労働者」の導入ではなく、「外国人観光客」の増加。これは、日本経済のボトルネック=生産年齢人口の減少が、経済学が想定するような労働力の減少ではなくて消費者の減少、生産力の減退ではなくて内需の減退という問題を生んでいる、という現実の観察から当然に導き出される戦略です。生産者ではなく消費者を外国から呼んで来ようということです。

高付加価値率で経済に貢献する観光収入内需拡大のために公共投資をせよ、給付金を配れと、いろいろな声があります。ですが、外国人観光客を増やし、その滞在日数を増やし(できれば短期定住してもらい)、その消費単価を増やし、国内‐でできるだけ多くのお金を使ってもらうということほど、副作用なく効率の良い内需拡大策は他には見当たらないのではないでしょうか。輸出だけによる経済活性化が行き詰まったこの日本で、外国人相手の集客交流促進による「内需拡大」が国や経済界の戦略の一丁目一番地に来ていないようにも見えるということ自体、不可解というか情けないというか、後世のもの笑いの種になることは間違いないと感じております。